何カ月か前のドーバー海峡
木曜日, 1 12月 2011
私の脳裏に、つい何カ月か前のドーバー海峡での出来事がよぎった。どうして自分ばかりがこんな目に遭うのだろう。何でこんなに打ちのめされなければならないのだろう。いっそこのガラスが、首に刺さって、死んでしまえたらいいのに!後にも先にも、こんな気持ちになったことはない。ブワァン、ブワァン。屋根は、まるで巨人が分厚い械琶を持ち上げるように、めくれあがろうとしていた。本当にもうダメだI、私たちもこらえきれずに地下室に駆け込んだ。怯える子供たち、震える奥さん。指を組み合わせ、歯を食いしばって耐えるご主人の姿を見て、学生で設計補助とはいえ、改めて感じたのは、どうやって償ったらいいんだろうということだった。建築家の仕事で、一番大切なのは何だったのか?家にとって、一番大切な要素は何だったのか?家はたんなる建築物じゃない。人が住むための住まいなんだ。一番大切なのは、デザインでも何でもない、人を守る安全だったんじゃないのか。私は、血反吐をはくような自責の念に駆られていた。夜が明けると、皮肉にも台風一過の素晴らしい日本晴れだった。惨めだった。家の中にいながらにして、その青空が望めたのだ。東西に長いその家は、まるで、蟹が甲羅をはがされたように、丘の上に腹を広げて横たわっていた。私たちが呆然としていると、そこに小手川氏のお父さんが駆けつけてこう言った、「家の上を、風の玉が通っただる」。